weekly column special edition
christina aguilera's spanish album "mi reflejo"
昨年来、ラテンのトップスターがアメリカに次々に進出し、大ヒットを記録しているのは皆さんご存知の通り。今までラテン市場だけで売れていた人たち:リッキー・マーティンを筆頭に、エンリケ・イグレシアス、マーク・アンソニーらが次々に大ヒット。やや毛色は違うけどサンタナやジェニファー・ロペスも大ヒットして、ラテンブームを盛上げました。しかし、アメリカで大ヒットしたラテン系作品は、すべて英語で歌われたもの。一足早くアメリカでブレイクしたグロリア・エステファンやセレーナにしても、アメリカでまともに売れたのは英語作品ばかり。一方、ラテンアメリカ諸国ではリキマやマーク・アンソニーと同じぐらい人気があるのに、シャキーラやサン・バイ・フォーといった人たちはアメリカではまともに売れてません(サン・バイ・フォーはシングルがちょっとヒットしたけど、あれも英語で歌った曲)。なぜ彼らが売れないかと言えば、スペイン語で歌ってるから。スペイン語作品しか出してないのに、アメリカで少しでも売れたのはここ数年ではルイス・ミゲルしか例がないでしょう(それでもトップ10にも届かない)。
つまり、昨今のラテン・ブームとは、ラテン系のアーティストが自分たちの本来の守備範囲ではない英語作品を録音することで英語圏に進出し、英語圏のリスナーがラテン系アーティストを知るようになったものだということになります。シャキーラもついに英語作品を出すらしいし。
一方、アメリカで既に成功している英語圏のアーティストがラテン・サウンドを取り入れるのは、それに便乗しようとするアプローチと言えます。今ならラテンの乗りをちょっと取り入れて、サビだけスペイン語をちょこっと使った98ディグリーズの「Give Me Just One Night (Una Noche)」がその典型的な例でしょう。単純に考えると「ラテンのサウンドを取り入れる」のと「スペイン語で歌う」のは同じ「ラテンブームへの便乗」に見えますが、実は両者の戦略は違うはずです。単純に言えばラテンのエッセンスを取り入れて英語で歌うのは「ラテンブームに便乗し、今までと同じ英語市場で売れる」ことを狙ったもの。一方もともと英語圏で売れていたアーティストがスペイン語で歌うのは「ラテンブームをきっかけに、今までとは違うラテンアメリカ市場に進出する」ことを狙っているはずです。前者の例が98ディグリーズ、後者の例が、アギレラのこのアルバムでしょう。
従って戦略的にはこのアルバムは全米チャートで大ヒットすることを狙ったものではなく、中南米のスペイン語圏のチャートでヒットすることで初めて「成功」と呼べる位置づけのものでしょう。Billboardのラテン・アルバム・チャートでは初登場1位をゲットし、Hot Latin Tracksチャートでは「Ven Conmigo (Solamente Tu)」(Come On Over Babyのスペイン語バージョン)が同時に1位。MTVラテン・アメリカのカウントダウンで「Ven Conmigo」がトップ10入りしている他、アルゼンチンのチャートではトップ3入り。コロンビアやペルー、更にはスペインではまだチャートに入ったばかりだが、順調に上昇中。と、戦略的にはこれは成功作と呼べるわけです。
アギレラを天使と愛でる私が言うとこじつけに聞えるかもしれませんが、インシンクが新曲を英語バージョン(今までのファン向け)、スパングリッシュ(英語とスペイン語をミックス)・バージョン(ブームに便乗)、スペイン語バージョン(ラテン市場進出を狙うもの)という3バージョンを用意したことからも裏付けられると思います。彼らのように、背後に強力なブレーンがついてて戦略的にアーティストを操作してるようなグループの場合、意味もなく3バージョンも吹込むとは思えず、各バージョンにそれなりの意味、ターゲットとする市場が存在するはずです。特にインシンクの場合メンバーにラテン系がいるわけでもなく、スペイン語で歌う必然性は何もないわけですから。
では、英語圏で既に成功しているアーティストが他の言語に真っ向から取組んだ例がどのぐらいあるかと言うと、最近は特に少ないんですよね。昔(60年代ぐらいまで)はこういう例って割とあって、ビートルズもドイツ語バージョンを吹込んだりしてますが、80年代以降は顕著に減ってると思います。ポリスやカルチャー・クラブが日本語バージョンを録音した、なんてこともありましたが、シングル1曲だけの単発企画モノでした。この時期、あるアーティストがかなりの意欲をもって、別の言語に本格的に取組んだ作品としては、リンダ・ロンシュタット及びグロリア・エステファンのスペイン語作品がその代表例ではないでしょうか。リンダ・ロンシュタットはメキシコ、グロリアはキューバにそれぞれのルーツがあります。二人とも音楽に対する姿勢がすごく真面目な人なので、自分の体に流れる血のルーツを辿って、ごく自然に、そのルーツにある音楽にたどり着いた、という感じで、奇しくも二人とも3枚のスペイン語アルバムを出しています。
アーティスティックなレベルでは比べるべくもないですが、少なくともその動機は、アギレラも同じ。父親がエクアドル人で、ラテン系ハーフである彼女は、その父親と暮していた幼少時代はスペイン語をしゃべって生活していました。両親が離婚→母親が別の男性と再婚したことで、日常生活にも英語を使うようになり、今回のアルバム録音にあたってもスペイン語のリハビリが必要だったようですが、「言語のセンスは3歳までで決まる」とされる通説を信じれば、アギレラにはスペイン語のセンスは充分に備わっていたことになります。
それはさておき、半分ラテン系である彼女はやはり自分のルーツを意識した上で今回のアルバム制作に臨んだことを語っています。ちょうどラテン・ブームなのでそれに便乗してやろうという狙いがレーベル側にあったことは確かでしょうが、そのいちばん根底にある動機は、インシンクや98ディグリーズとは明らかに違うわけです。
しかしアイドルとしては歌もうまいし、ルックスにあまりにも恵まれている彼女ながら、どうも製作陣にそれ相応の能力があるとは思えないんですよねえ。デビュー作だって音だけ聴いてる分には全然面白くないし、このアルバムも「曲がよくない」のが何よりもマズいです。酷い曲が揃ってるんなら、それはそれで逆の意味で印象に残るんですが、ごくありふれた、全然印象に残らない曲をこうやって並べられてしまうと、辛いですねえ。いちばん耳にひっかかるのが「Genie」「What A Girl Wants」「Come On Over」の3大ヒットのそれぞれのスパニッシュ・バージョンってのは寂しいです。
ジャケも個人的にはあんまり好きじゃなくて、中ジャケの写真のほうが可愛いと思うんだけどなあ。このページのいちばん上に載せているのがブックレットを開いたところ。いちばん左が「Come On Over Baby (All I Want Is You)」シングルのジャケに使い回され、右側の写真がデビューアルバムの再発限定版2枚組バージョンのジャケに使い回されてます(下の写真)。
ということで、このアルバム「Mi Reflejo」自体はそんなにお勧めできるようなものではないです。むしろ10月後半発売のクリスマスアルバムの方が、楽しめそうな気がします。ただ、これは彼女が自分のラテン系のルーツにこだわって製作した、アイドルとしては珍しくコンセプトのある作品であること、そして700万枚のアルバムを売る英語圏のトップアイドルが初めてスペイン語作品に本格的に挑戦した作品として、その存在意義は非常に高いですね。

2000/10/15 byしんかい
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